女の子は最初、毎朝すれ違う彼の姿を見かけるだけで幸せでした。
「おはよう」
そのうち彼の方から挨拶してくれるようになって
その日は一日夢心地で
それから少しづつ、少しづつ、いろんなお話をするようになって、
彼の名前を知って、
彼の好きな本を知って、
彼の好きな音楽を知って、
彼の好きな食べ物を知って、
でもそのうち、
もっともっと知りたい、
もっと会いたい、
もっと一緒にいたいという気持ちが強くなって
以前のように、姿を見ただけで幸せだとは
思えなくなってしまいました。
「あたしはどんどん、欲張りになってしまう。
前は遠くに彼の姿を見つけただけで幸せだったのに。
挨拶できただけでドキドキが止まらなかったのに。
今では5分おしゃべりしても、10分おしゃべりしても、もっともっとって思ってしまう。
ずっと一緒にいたい、彼にも同じように思っていてほしい。
そんなの、欲張りすぎるかな。」
庭の薔薇の木に水やりをしながら
つい、ため息が溢れてしまいました。
「そんなに悲しそうな顔をしないで。
それは恋だもの。
彼に会いたい、彼のことを知りたい、彼にも好きになってもらいたい、
そう思うのは欲張りでも、悪いことでもないわ。
勇気を出して、あなたの気持ちをちゃんと伝えてごらんなさい。」
一輪だけ咲いていた、ピンク色の薔薇の花から
とても愛らしい小さな妖精が現れてそう言いました。
「でもその前に、魔法をかけてあげる」
そう言いながら妖精は、女の子の耳に、
キラキラ輝く光のピアスをつけてくれました。
「薔薇は、愛を司る花なの。
その薔薇の花と、朝の煌めく光を雫に閉じ込めた魔法のピアスよ。
これをつければ、あなたの笑顔は100倍輝くから。
自信を持って、自分の想いを伝えておいで。」
女の子は、鏡を見ました。
その中にいたのは
バラ色に頬を染めた、恋する女の子。
「うん、きっと大丈夫。わたし、ちゃんと自分の気持ちを伝えられる。」
自分で自分に微笑むと、ピアスはキラキラ煌めいて
女の子の顔色を、もっと綺麗に輝かせました。
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